2014/11/07

茅野日誌 第6回

茅野市にビーナスラインという道路が通っている。街から蓼科、霧ヶ峰、美ヶ原等の高原に向かって伸びている。1960年代に有料道路を繋いで命名され、その後無料開放となり観光道路として首都圏からも来客が多い道路とのこと。
よく車のCMに使われているのね。きれいな山の道でかっこ良く車が走っている映像は、大概ここと言われるほど風光明媚な景色で。僕も何回か通ったけどドライブにはもってこいの雰囲気でね。
そんな道路の脇に今回の訪問先、八ヶ岳福祉農園はあった。


ここもひまわり作業所やあすなろセンターと同じくB型作業所なのだが、ここの一番の特徴は農園の経営をしているということだろう。近くに畑があり農産物を作り、加工販売しているとのことで、作業中お邪魔し話を聞く。

所長のNさんは気さくでやさしそうな方で、ここで作っているものを紹介してくれる。
まず驚いたのはほおずき。


皆さん、ほおずきっていうと思い浮かぶのはどんなイメージですか?僕は昔母親が近所の林で取って来たほおずきを口に入れてならしていたことを思い出すのよ。知ってるかな。実の中身を楊枝でかきだして、袋状にしたものを舌でつぶしてギュッギュッと鳴らすのね。食べるものではなく鑑賞用や母親の子供の頃の遊びだったらしいんだけど子供心にも「食えないのか〜」と残念だったんだよ。だってとてもおいしそうでね。それ以来僕にとっては「食べられないもの」というレッテルを貼ってた。






そのほおずきがここにいっぱい並んでいた。ひょええ!どうするんだろうと思ったら「食用です」とのこと。な、な、なんですと!食べられるんですか。「どうぞ」とひとつ頂きさっそく食べてみる。をを。パクリ。う〜む。んまい!甘くてやさしい味が口の中に広がる。もうひとつパクリ。種もなく甘みが濃いのに驚く。これはおいしいなあ。
すすめてくれたおばちゃん。実が大きいのがわかるかな?

「これは食用のほおずきでうちの目玉商品です。」贈答用にきれいな箱に詰めて出荷しているとのこと。これは贈り物としても洒落てるし人気なんだろうなあ。
「美味しいです!」と声を上げるとNさんも嬉しそう。
奥の席に座りもう少し話を聞く。

ちょうど他の来客があったようで遠慮したのだが、どうぞと促され一緒に座る。その方は障がいのある人の就労や生活を支援する方で、Nさんと話している内容を聞くと鹿の肉の話。ここらで取れる鹿肉を加工食品として売り出したいと。今度はジビエかよ!


なんでもここらでは鹿を捕獲するのだが、最近は鹿肉を破棄せず特産品にしようとする動きがあるらしい。元々は伝統的に食べられていたものだし、フランスやイタリアではジビエ料理のいい食材でもあるため、どうにかビジネスに繋げられないかと話していた。同席していた僕とOさんは「だったらこんな感じはどうですか?」とか「結局どう食べるかですよね」とか、素人の分際でいいたい放題!彼らも笑いながらそうですね〜と聞いてくれた。なんだか大きな仕事の話をしているようで気が大きくなる。「加工工場を建設する予定があってね」とNさんが話してくれるのを聞いていると、僕チンはそれを建てているような心持ちに!すっかり気分は鹿富豪(笑)。ボートのバイトの分際でいい気なもんである。試食の鹿ハンバーグを頂くと、癖がなく美味しい。ソースはほのかな甘みが後を引くほおずきソースである。お洒落である。何ともニクいアンチクショウである。「ほんとはデミグラスの方が美味しいんだけどね」と、どこまでもグルメなトークに僕はもうメロメロ。
ここら辺りでは、鹿肉というと猟師が駆除したものをお裾分けで頂くことが多いらしく、血抜きをしっかりしていない肉は獣臭くて美味しくないらしい。小さい頃にそういった肉を頂いて食べた経験のある人が多く「鹿肉は臭い」と不評だそうで。しかし、しっかり処理すれば高タンパク低脂肪でヘルシーだし、臭みもなく美味しいものだと訴えていきたいと言っておりました。
お土産に鹿肉のロティ(ローストビーフの鹿肉版)のパックも頂き何をしに来たんだかすっかり忘れ気味。
頂いたロティとNさん。美味しゅうございました。

イカンイカンと思い直しこちらで働く人々の様子も聞く。「ここで働いている人たちは長い人が多いんだよね。みんなで仕事を通じて一緒に生活できることが何より嬉しくてね。畑での仕事は楽しいよ。」とお父さんのようなNさんは語ってくれた。周りにいるみんなも体を動かす仕事をしているせいか静かな人が多く、それもここのハッピーな雰囲気の一端となっている様に感じた。
街道沿いの元土産物屋といった風情の建物の中で、甘い匂いに包まれてなんだか幸せな気分になった。

なんだか一口に福祉の人々といっても本当に様々な生活や仕事があるわけで、とても一口では言えないなあと思いつつ、その多様さにますます元気をもらっている自分がいるのだった。